2019年欧州講習会

2009年から10年後に再びフランクフルトで欧州講習会が開催された。今回はグループ内での通訳とセミナー及び審査でのコーディネート役として参加した。

セミナー中は毎朝参加者の一人が全参加者を代表して 射法訓・礼記射技の朗読を行った。これは、 全員そろって 今から射へ臨む心構えを神前へ向かって誓う意味があると説明を受けた。

個人的に指摘された所は、①第一介添えでの姿勢が高すぎる。②射手が肌入れをするときは、紋がきちんと正中しているかどうかを確認した後に立つ事(早く立ちすぎた)。③矢番えで前の人が遅れた場合は、甲矢の筈を持ったまま待つ。(乙矢を立てて待ってはいけない)④正座(又は跪座)で両手を腰に執った場合は、両手先が膝へ向かい頂点が交わる⑤射位での閉じ足の時、左足の角度は残ったまま閉じるときに腰で回しながら閉じる。自分なりの理解・解釈として、3番はなるほど直ぐに取り掛けの出来る状態であるべき、4番は弓と矢の先が交わるが如く、両手先もそろって形に隙が無い事が重要であり、5番は必要あらば直ぐに足踏みできる体制(武射系の場合)であると気が付くことが出来た。今後は言われなかったことも含めて、隙の無い構え、動作とは何かと更に考えていく必要があると認識した。又、3日目には射法射技の基本と基本動作の注意点についてN先生が日本語で朗読した後に、英語の教本を朗読する役目を担った。日本語で用が足りていた事もあり、英語の教本は見たことは何度もあるが、実際に読んでいなかった為、知らない単語も多々あり、かなりたどたどしい英語でしか読むことが出来なかった。この件を反省して、欧州で指導している立場の者としては、日本語での理解に加え、英語でどのように表現されているかを認識していなければならない。英語の教本も今後しっかりと読み理解し、それを伝えるように頑張りたい。

以前は特に審査では、入退場と矢番え動作が判断基準の重点となっていたが、昨年あたりから 1)歩行中の向きを変える動作、2)開き足で反対の膝をしっかりかぶせる事、3)弓の本弭を膝頭に乗せる事、4)正しい矢束を取る事、5)狙いが正しい事、6)正しい手の内とこれらの6つが追加で加わったと聞いた。ここからは、先生の通訳をしながら、先生が実際に指導された事を含めて、その言葉の真意を探ってみたい。ここからは全くの私的な考えである。

1)歩行中の向きを変える動作。指導の内容や実際に見せていただいた感じでは、向きを変える前に腰を回し、曲がる足が踏み出した足の踵に来る前に曲がる方向に向いている事。(つまり曲がる足が動き始めると同時にドリフトを開始し、踏み出した足の踵の位置に来た時には、ドリフトが終了し、向きが完全に90度回っている)そして、踏み出した足が後から付いてくるときには、同様に足の中心で回転して進行方向に向きが変わってから踏み出す事。ではないかと思っている。総括すると、歩行中に向きを変えるときは特に重心がずれたり、体勢が崩れやすいので、しっかりと爪先(親指の付け根)と踵のアーチのバネを利用し、踏み出す足は丁度バネが伸びた浮足となって進むため、腰が開くなりに足の中心から90度(無駄なく素早く安定した回転軸)床の摩擦の影響を受けずに動ける稽古ではないかと思う。

2)開き足で反対の膝をしっかりかぶせる事。開き足の動き自体は、跪座から腰を切り、再び跪座に戻る動作であるが、同時に膝を90度踏み出す動作と考えたほうが良いのではないだろうか?今までは回る反対側の膝を回転軸と考えて、この膝を中心に回っていたが、実はあくまで体の中心軸を使って膝で踏み込むようにする方が隙が遥かに少なく、直ぐ反応できる体制であると考える。

3) 弓の本弭を膝頭に乗せる事 。これは、膝頭に弓の重さを預けるのでなく、あたかも壁にやや寄りかかっているだけの状態ではないかと考える。正しい弓構え(弓の持ち方と膝頭の使い方)を行う事によって下筋からの伸びで弓を抱えている状態が会から離れまで継続的に行える利点がある。下筋を活かすとは、弓の力を肩から下の体(足腰胴)で受ける体制であり、上筋は肩から上の体(首・頭)の部分に負荷がかかっている状態と考える。ようは外から見た形ではなく、内容が重要であると考える。

4)正しい矢束を取る事 。これは何をもって正しい矢束であるかという一つの定義であるが、先生の指導を総合すると、引いた矢の長さを言っているのではなく、体が弓に正しく組み合っているかどうかが問題ではないかと感じられた。要は、弓を両手ではなく体全体を使って引き分けたときは自然と体の重さで弓を押し開く形となる。従って、弓にかかっている体の質量が多ければ多いほど良いということなる。これは体の一部を使って例えば手繰る、腕だけで開く、上体のみで引く等は、矢の長さは取れても、本来の矢束ではないと教えられた感があった。

5)狙いが正しい事 。体は矢が的にあたるように、矢所(どこに矢が到達したか)によって自然と反射反応するように出来ている。従って、離れで五重十文字が崩れる要因の多くは狙いの不正にあるのではないかと考える。又、仮に後ろから見て矢が的に乗っていたとしても、力の方向が矢筋に働いていない場合は、これも狙い(矢の推進方向)が狂っていると考える事が出来るだろう。狙いとは矢乗りと弦の戻る方向の一致の事ではないだろうか?

6)正しい手の内 。今回ここでは書ききれない内容であるが、上記のごとく、1)体のバネと 2)体軸をしっかりと意識し、3)下筋を継続的に使いながら弓を操作し、4)体全体の質量で弓を引き、5)力の方向性が矢筋にあっているのであれば、弓も自然に振動の節を中心に元の形(矢番えの状態)に戻ろうとする。弓がその位置に自然に戻った場合は、手の内に変化がないので、結果として弓も落ちることなく、弓も暴れたり、伏せたり、前のめりになることなく自然と立つ。ようは、弓なりに引かせることが重要で、弓がしっかり働く条件として、土台(手の内を含んだ体全体)に変化がない事が重要ではないかと考える。

今回は新たに上記の6つについて考える機会に恵まれて大変勉強になった。今後はこれらを稽古で自得・会得していきたい。